前巻で描かれた「選挙戦の熱さ」と「人間くさいドラマ」…
リアルで引き込まれる展開に、先を読みたくなった方も多いのではないでしょうか。
ちなみに上巻の記事はこちら!未読の方はぜひ✨
『ダイスをころがせ!』(著者:真保裕一)
いよいよ物語は後半戦へ突入します。
選挙戦の行方とともに、人間模様もさらにヒートアップ!
今回は下巻をご紹介します。

こんな人におすすめ!
・政治の裏にある人間ドラマに興味がある人
・主人公の不器用な奮闘を最後まで応援したい人
・決断や覚悟を描いた物語が好きな人
あらすじと補足
下巻では、候補者たちの選挙戦がいよいよクライマックスを迎えます。
支援者やライバル陣営との駆け引き、資金集めの苦労、街頭での活動の臨場感がリアルに描かれ、読んでいて思わず引き込まれます。
人間関係のもつれや、家庭内の不協和音を感じる場面もありますが、その不器用さがかえってドラマを深めているのも印象的です。
また、本作が出版された2002年当時と現在では、政治資金規制や選挙制度に違いがあります。
制度の変化を踏まえると「今ならこうはならない」と思う部分もありますが、むしろ当時の空気感が際立ち、物語をよりリアルに感じさせてくれます。
印象に残った場面
▶ 選挙の裏で揺れる家庭問題
主人公の妻・美緒は、娘の幼稚園受験に夢中になっています。
けれど、その熱心さゆえに、肝心の娘の気持ちが置き去りになっているように見えてもどかしいです。
子どもにとって大切なのは合格ではなく、安心できる日々のはずなのに、美緒の言動からは「親の理想」ばかりが先立ってしまう。
身近にもありそうな姿に、思わず考えさせられる場面でした。
▶ 政治家のイメージ
私はこれまで、駅前の演説も選挙カーの声も、いつもマイクの音割れが酷くて何を言っているのか分からず、ただ喧しいだけだと思っていました。
さらに、立候補する人たちには「当選がゴール」というイメージが強く、どこか本気度を感じられなかったのです。
実際の政治の世界には、真剣に取り組む候補者を脅威とみなし、自分たちが当選するためだけに嫌がらせを仕掛けるような人たちもいるでしょう。
そうした姿を思うと、選挙そのものに冷めた視線を向けてしまうのも無理はありません。
けれど、この物語を読んでいると、本当に政治を変えたいと心から願い、全力で取り組む人たちもいるのだと思わされます。
本作に登場する天知達彦の姿はまさにその象徴で、「こういう政治家が現実にもいてほしい」と心から願わずにはいられませんでした。
選挙の声が雑音にしか聞こえなかった自分が、今は少し違う目で見てみようと思えている。
そんな小さな変化が、この本を読んで得た一番大きな気づきなのかもしれません。
▶ 家庭や恋愛のゴタゴタは好みが分かれる
最後まで読んでも、妻・美緒や同級生のマキとサキにはどうしても好感が持てませんでした。
これは、私自身がもともと家庭や恋愛のゴタゴタを扱う物語があまり得意ではないからだと思います。
選挙の話だけで十分に面白さがあるので、夫婦関係の不和や、過去の恋愛の蒸し返しによるギクシャクといった要素は、正直なくてもよかったのでは… と感じました。
主人公にしても、妻と娘がいるのに高校時代の恋愛をいつまでも引きずっている姿には、少し首をかしげてしまいます。
もっとも、そうした等身大の弱さや葛藤があるからこそ、物語に厚みが出ているとも言えます。
けれど、私にとっては選挙戦だけに焦点を当ててくれた方が、より楽しめたのではないかと思いました。
総評
▶ 
お受験問題、家庭や恋愛のゴタゴタに加え、後半には土地の買収問題まで絡み、テーマが広がりすぎて頭に入ってきにくい部分がありました。
しかもラストは読者の解釈に委ねる形で締められており、「終わり方が微妙」という声が多いのも納得できます。
選挙戦を中心に描いた前半の熱量が面白かっただけに、後半の散漫さと結末の弱さは少し残念に感じました。
総合的には楽しめたものの、期待していたほどの満足感には届かなかった… そんな印象です。
とはいえ、選挙に出馬することの大変さや、1票の重み、そして政治の不透明な部分をクリアにしてくれる描写は読みどころがありました。
そうした点は本作の大きな魅力なので、読んでよかったと思いました!