『カササギ殺人事件』は、上・下巻に分かれた大人気ミステリー。
海外作品らしい重厚な構成と、巧みなストーリーテリングが魅力のシリーズです。
そんな本作ですが、上巻と下巻の分け方が本当に秀逸!
上巻のラストで「えっ、どういうこと!?」と驚かされた方も多いのではないでしょうか。
ちなみに、上巻の記事はこちらです。
まだ読んでいない方は、ぜひ上巻からどうぞ✨
物語は、いよいよ後半へ突入。
『カササギ殺人事件(下)』(著者:アンソニー・ホロヴィッツ / 訳:山田蘭)です。
こんな人におすすめ!
・どんでん返し系ミステリーが好きな人
・伏線回収の快感を味わいたい人
・フィクションと現実が交差する物語に惹かれる人
あらすじと補足
上巻では、編集者として働く女性・スーザンが、大人気ミステリー「アティカス・ピュント」シリーズの最新作
『カササギ殺人事件』の原稿を読み始めるところから物語が始まります。
物語の大部分はその「作中作」である『カササギ殺人事件』の世界が描かれ、絶妙なところで上巻が終わるという、
まさに「続きが気になって仕方ない!」という展開でした。
そして下巻。
スーザンが「物語が途中で終わってる!」と憤慨する場面から始まります。
まさに読者の私たちと同じ気持ち。
スーザンの困惑や焦りに、そのまま感情移入してしまいます。なんというギミック!
その直後、作中作の作者であるアラン・コンウェイが突然亡くなったことが判明。
スーザンは「未完の原稿の行方」と「アラン・コンウェイの死の真相」という二つの謎を追いながら、真実に近づいていく… というストーリー。
印象に残った場面
▶ 作中で紹介された本が気になる
ヤマモトはよく、小説の中で紹介された本が気になって、つい読んでみたくなるタイプです。
本書でも、上下巻を通して実在の作品名がいくつか登場します。
中でも気になったのが、イアン・マキューアンの『愛の続き』という作品。
作中では「高いところから落ちた人間の身体がどうなるか、すばらしく詳細な描写がある」と紹介されていて、思わず調べてしまいました。
どうやら、ゲイのストーカーに悩む男性を描いた物語で、あまりハッピーエンドではない模様。
でも「転落死した遺体の素晴らしい描写」という一文には、正直ちょっと興味をそそられました。
レビューを見ると「文章がすごく読みやすい」と高評価も多く、気になる一冊。
機会があれば、ぜひ読んでみようと思います。
▶ アティカス・ピュントの容姿
作中で「シンドラーのリスト」で知られるベン・キングズレーが、アティカス・ピュントのイメージ像との記載があり、思わず検索してみました。
すると、ハットを被った白黒写真が出てきて、まさに私が想像していた「ピュント像」そのもの!
少し小柄で、整ったスーツ姿に、几帳面で理知的な雰囲気。
一見すると会計士に見える風貌で、あまり感情を表に出さないタイプ。
けれど、言葉の一つ一つには確かな重みがあり、相手の本音を静かに見透かすような眼差しが印象的です。
作中のセリフや立ち居振る舞いを思い出しながら、「ああ、確かにこの人ならピュントだ」と妙に納得してしまいました。
キャラクターの姿が、読者それぞれの頭の中に立ち上がる瞬間って、読書の醍醐味のひとつですよね。
▶ 血は繋がっていても、価値観は別の生き物
スーザンと妹のケイティは、性格も価値観もまるで正反対です。
それでも仲の良い姉妹として描かれていて、最初は「なんだか理想的な関係だな」と思いながら読んでいました。
けれど、ケイティがスーザンに「いろいろとうまくいってるの?」と尋ねる場面があり、スーザンがうんざりした様子を見せます。
ケイティはすでに結婚して子どももいて、家族と穏やかに暮らしている。
一方のスーザンは恋人はいるものの、結婚には重きを置かず、自分の時間を自由に生きているタイプです。
スーザンが車に乗り込み、ようやく一人になってほっとする描写が印象的でした。
彼女は妹のことを「自分の尺度で人を測ろうとする人」と評しています。
それでも仲良くしていられるのは、血のつながりゆえなのか、それとも諦めのような愛情なのか。
この姉妹の距離感がとてもリアルで、読んでいて胸に引っかかりました。
そしてこの場面を読んでいて、ふと自分のことを思い出しました。
私も母から「うまくいってるの?」と聞かれるのがあまり好きではありません。
仕事でも恋愛でも、嬉しい話があれば自分から話すので、詮索されるのはどうも落ち着かないのです。
母に「彼氏とうまくいってるの?」と聞かれたとき、「その質問あまり好きじゃない」と答えたところ、母の機嫌が急に悪くなりました。
さらに母は、「この前、親戚の子にも同じことを聞いたけど、うまくいってるって答えてくれたよ」と返してきました。
でも、久しぶりに会った親戚のおばさんからそんなことを聞かれたら、私だってとりあえず「うまくいってます」と答えたと思います。
それに、もし「うまくいってない」と答えられたら、どうするつもりなんだろう。
大した慰めもできないし、相手を傷つけてしまうかもしれない。
そう考えると、「うまくいってる?」という言葉は無神経な発言だと思うのです。
「そういうことは簡単に聞かないほうがいいと思うよ」と言った私に、母は「そう思うのはあんただけ。あんたはおかしい。異常だもの」と言い捨てました。
スーザンとケイティのやり取りを読んで、そのときのことを思い出しました。
スーザンは、ケイティとの関係を「良い友人同士」と表現しています。
けれど、スーザンがケイティやその家族のことを語るとき、どこか含みを持たせた言葉が多く、わずかにトゲを感じます。
アンソニー・ホロヴィッツ氏は男性作家ですが、訳者の山田蘭氏の筆が見事なのか、女性同士の微妙なマウントや距離感の描写が本当にリアルでした。
総評
▶ 
全体を通して文体は読みやすいですが、好みは分かれるかもしれません。
イギリスを中心とした海外の文化や宗教、街並み、思考、アナグラム、そして他作品からの引用やオマージュなどが、まるで日常のように描かれています。
そのため、海外作品をあまり読み慣れていない方にとっては、少しとっつきにくく感じるかもしれません。
それでもストーリーは圧倒的におもしろく、展開が読めません。
上巻を読んでいたとき、冒頭でスーザンが「『カササギ殺人事件』を読んで人生が変わってしまった」と語る場面がありました。
その後、上巻はすべて「アラン・コンウェイ作『カササギ殺人事件』」という作中作として進むため、「下巻でスーザンの物語が回収されるのだろう」とは思っていたのですが、まさかこんな展開になるとは、誰も予想できなかったと思います。
結末では、見事に伏線が回収されます。
作中作『カササギ殺人事件』そのものの真相に加え、作者アラン・コンウェイの死の真相までも明らかになる構成は圧巻でした。
今回は再読でしたが、内容をすっかり忘れていたおかげで、まるで初読のような新鮮さで楽しめました。
上下巻ともにアダルティーな描写はほとんどありませんが、下巻では一部そうした「言葉」が登場します。
とはいえ頻繁ではなく、物語を進める上では避けられない要素だと思うので、アダルティー描写が苦手な私でも問題なく読めました。
シリーズ続編『ヨルガオ殺人事件』『マーブル館殺人事件』も、これから読むのが楽しみです!
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