原田ひ香著『老人ホテル』の表紙画像

原田ひ香 🙂🙂🙂

老人ホテル / 原田 ひ香

読みかけの本を家に置き忘れ、数日間は家に戻れない… そんなとき、みなさんならどうしますか?

ヤマモトは我慢できずに新しい本を買ってしまいました🤣

家には積読が山ほどあるので、最近はなるべく自制していたのですが…
買う気満々で本屋さんに行くのってやっぱり楽しいですね!笑

そんな状況で本屋さんをぶらぶらしていたときに出会ったのが、こちらの本。
『老人ホテル』(著者:原田ひ香)です。

まずタイトルがいいですね!
どこか原宏一氏の『かつどん協議会』や『床下仙人』『天下り酒場』といったユーモラスなタイトルに通じるものがあります✨

ヤマモト

こんな人におすすめ!

・将来を考えるきっかけが欲しい人
・社会派テーマを軽めに読みたい人
・資産運用や将来設計に関心がある人

あらすじと補足

本作の主人公は、機能不全家庭で育ち、お金の管理の仕方を知らない女の子・日村天使(ひむらえんじぇる)ちゃん。
「お金持ちになる!」という強い執念を抱き、人生の先輩たちからお金のノウハウを学んでいく物語です。

天使ちゃんは、生活保護を不正受給している親と7人きょうだいの末っ子という、かなり特殊な家庭環境で育ちます。
長女が「大天使(みかえる)」、長男が「堕天使(るしふあ)」といった具合に、兄弟全員が「天使つながり」のキラキラネーム。
現実離れしたネーミングが、家族の生態を象徴しているかのようです。

ただ、冒頭で「天使(えんじぇる)」という名前だけが提示され、さらに「厚ぼったい一重まぶた」という容姿の説明が入るので、最初は「人間界に降りてきた、モサッとした天使(死神?)が老人を迎えにくる話?」と誤解してしまいました。

兄弟の名前に対して、作中で誰もツッコミを入れないのは、現実のキラキラネームへの配慮なのかもしれません。
ただ、そのスルーっぷりは少し違和感として残りました。

印象に残った場面

老人と老婆と老女

場末のキャバクラでの描写に、少し違和感を覚えました。
「この場所に一番似合わないのが老婆だった。老人ならまだわかる。キャバクラで金を使う年老いた男はたくさんいる」という一文です。

「老人」という言葉は本来、性別を問わず、「老いた人」を指すはず。
本書のタイトルも『老人ホテル』であり、実際に女性客も多く登場します。
別の場面では女性も「老人」と表記されているのに、この場面では「老人=男性」「老婆=女性」と分けているのが不自然に感じられました。

単純な表記の揺れなのかもしれませんが、考えてみると「老婆」の対になる男性の言葉って何だろう?
「老爺」?「老男」? どちらもしっくりこない。
作中では年上の女性従業員を「老婆」でも「老人」でもなく「老女」と呼び分けていて、余計に言葉の使い分けに意識が向きました。

この微妙な表記のズレが、かえって「老い」をどう言葉にするかという難しさを浮き彫りにしているようで、印象に残った場面です。

▶︎ 家賃・宿泊費が安すぎる

天使が働いているビジネスホテルの宿泊費は1泊4,800円。
連泊だと3,800円でめちゃくちゃ安いです。

さらに、関東でバストイレ別のワンルーム、駅から徒歩4分・築5年という好条件の物件に家賃6万5千円で住んでいて、
「高いから引っ越せ」と言われるくだりがあります。

正直、この金額設定には違和感を覚えました。
関東で築浅・駅近・バストイレ別なら、むしろ6万5千円はかなりの格安物件。
しかも、その後見つけたアパートは築40年・駅から徒歩13分で家賃2万7千円という設定です。

ヤマモト自身、家賃が安いとされる雪国の地方都市に住んでいますが、10年以上前に借りていた築35年・エアコンなし・駅から徒歩12分のアパートでさえ、当時の家賃は3万8千円。
それでもかなり「安い」と感じていました。
関東で2万7千円という金額なら、現実的には共同トイレ・風呂なし・かなり古い物件か、あるいは事故物件くらいしか考えられないでしょう。

作中ではWi-Fiやスマホも登場するので舞台は現代であり、しかも本書は2025年4月に発売されたばかりの新刊。
それにもかかわらず、手取り16万円で月8万円以上貯金できると描かれており、リアリティの面では参考にしづらい部分が多く感じました。

▶︎ 前振りが長くて、突然終わる

主人公の天使は、金持ち老婆・光子からお金のノウハウを教わるため、彼女が住むビジネスホテルで清掃員として働き始めます。
ところが光子に取り入るまでがとにかく長い!
元ジャーナリストの老婆・幸子に自分の過去を記事にされるのを承諾したり、光子との間で「教えてください」「嫌だね」と押し問答を繰り返したり…。
ようやく「教えてもいいよ」となるまでに本書の半分を費やします。

さらに投資家の老人・大木からもノウハウを学び、天使のお金が増えていくところで物語は盛り上がっていきますが、そこから急に終盤に突入。
本自体はまだ数十ページ残っているのに、本編は突然幕を閉じ、特別収録のスピンオフ短編へ。

最初は「ここで終わり?がっかり…」と思ったのですが、その短編が本編と密接に繋がっていて安心しました。
「あ、ちゃんと続きがあったんだ!」とホッとしたのも束の間、読み終えてみるとやっぱりモヤモヤが残る終わり方でした😅

総評

3 out of 5 stars

ヤマモト自身もお恥ずかしながらお金の管理が得意ではなく、外食が大好きだったり、買い物も欲しいと思ったらすぐ買ってしまったりするタイプ。
だからこそ、本作の天使ちゃんに自分を重ねながら読み進めました。

設定金額が昭和の時代のように現実離れしていて参考にならない部分もありましたが、それでも共感できる場面は多々ありました。
救いのあるハッピーエンドを期待していたので、最後の切なさには余計に胸が詰まりました。

また、残念に感じた点も。
不動産屋と光子の関係は伏線が回収されないまま、幸子の本が出版されたあとの反響も描かれず、前半の長い「溜め」に比べてノウハウ部分があっさり終わってしまったので、そこは物足りないと思いました。
先輩・山田さんはシングルマザーなのですが、仕事も頑張っている様子があるので、もっと掘り下げてほしかったところです。

とはいえ、文章はテンポよく読みやすく、登場するテーマも興味深いものばかり!
NISAやiDeCo、ふるさと納税、不動産投資など、どれももっと深く読みたかったなと感じました。
一冊完結ではなくシリーズ化されていれば、より充実した作品になったのかなと思います。

本作を通じて「お金の使い方や貯め方を考えるきっかけ」を与えてくれるのは間違いありません。
将来への視点を改めて意識させてくれる一冊でした!