こんにちは!ヤマモトサオリです。
今回ご紹介する本は、『カササギ殺人事件(下)』(著者:アンソニー・ホロヴィッツ/訳:山田蘭)です。
『カササギ殺人事件』は、2019年本屋大賞翻訳小説部門を受賞し、国内で7冠を達成した話題のミステリー小説です。
上下巻の二冊構成で、この記事では下巻について紹介します。
作者のアンソニー・ホロヴィッツは、ドラマ「名探偵ポアロ」の脚本も手がけた作家です。
本作も、ミステリーの女王、アガサ・クリスティへのオマージュがたっぷり詰まった作品になっています。
重厚な構成と巧みな物語運びが魅力の作品ですが、上巻と下巻の分け方がすばらしいです。
上巻のラストで「えっ、どういうこと!?」と驚かされた方も多いのではないでしょうか。
この記事では上巻の内容にも触れているので、これから上巻を読む方は、先にこちらの感想記事をどうぞ。
今回も上巻に続いてAudibleで聴きました。
ナレーターは佐々木望さんと山口由里子さんのお二人で、下巻の再生時間は13時間5分です。
上巻は作中作『カササギ殺人事件』がメインだったのに対し、下巻は語り手である編集者の「わたし」(スーザン)が中心になります。
下巻でスーザンのパートを担当するのは山口由里子さんです。
落ち着いた語り口だからこそ、スーザンの焦りや戸惑いがかえってリアルに伝わってきます。
聴き進めるうちにじわじわと緊迫感が増していき、活字とはまた違った没入感を味わえました。
特に、事件の真相が畳みかけるように明かされていく終盤は、耳で聴くとテンポの良さがいっそう際立ちます。
13時間と長めですが、続きが気になって一気に聴き終えてしまいました。
これから聴いてみようという方は、ぜひ上下巻を通して聴いてみてください。
Audibleには30日間の無料体験があるので、まずはそこから試してみるのもおすすめです。
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こんな人におすすめ!
・どんでん返し系ミステリーが好きな人
・伏線回収の快感を味わいたい人
・フィクションと現実が交差する物語に惹かれる人
あらすじと補足
上巻では、出版社で編集者として働くスーザンが、大人気ミステリー「アティカス・ピュント」シリーズの最新作『カササギ殺人事件』の原稿を読み始めるところから物語が始まりました。
上巻の大部分では、その作中作である『カササギ殺人事件』の世界が描かれ、名探偵ピュントがいよいよ真相にたどり着こうかというところで幕を閉じます。
そして下巻は、原稿を読み進めていたスーザンが、肝心の結末部分が抜け落ちていることに気づき、憤慨する場面から始まります。
その気持ちは、上巻を読み終えたばかりの私たち読者とまったく同じです。
スーザンの困惑や焦りにそのまま感情移入してしまう、なんとも巧い仕掛けです。
さらにその直後、作中作の作者であるアラン・コンウェイが突然亡くなったことが判明します。
スーザンは「消えた結末の原稿はどこにあるのか」「アランはなぜ死んだのか」という二つの謎を追いながら、少しずつ真実に近づいていく… というストーリーです。
印象に残った場面
作中で紹介された本が気になる
私は小説の中で紹介された本が気になって、つい読んでみたくなるタイプです。
本書でも、上下巻を通して実在の作品名がいくつか登場します。
中でも気になったのが、イアン・マキューアンの『愛の続き』という作品です。
作中では「高いところから落ちた人間の身体がどうなるか、すばらしく詳細な描写がある」と紹介されていて、思わず調べてしまいました。
どうやら、同性の相手からの執着に悩まされる男性を描いた物語で、あまりハッピーエンドではない模様。
それでも、転落死した遺体の描写が「すばらしい」と評されていることに、正直ちょっと興味をそそられました。
レビューを見ると「文章がすごく読みやすい」という高評価も多く、機会があればぜひ読んでみようと思いました。
アティカス・ピュントの容姿
作中で、映画『ガンジー』や『シンドラーのリスト』で知られる俳優ベン・キングズレーが、アティカス・ピュントのイメージとして挙げられる場面があります。
スーザンは、有名俳優のイメージを借りるなんてずいぶん安直だ、というようなニュアンスで、あまり気に入っていない様子でした。
でも私はというと、思わずベン・キングズレーを検索せずにはいられませんでした。
すると、ハットをかぶった白黒写真が出てきて、まさに私が想像していた「ピュント像」そのもの!
少し小柄で、整ったスーツ姿に几帳面で理知的な雰囲気。
一見すると会計士のような風貌で、あまり感情を表に出さないタイプ。
けれど言葉の一つ一つには確かな重みがあり、相手の本音を静かに見透かすような眼差しが印象的です。
作中のセリフや立ち居振る舞いを思い出しながら、「確かにこの人ならピュントだ」と納得してしまいました。
キャラクターの姿が読者それぞれの頭の中に立ち上がる瞬間は、読書の醍醐味のひとつですよね。
血は繋がっていても、価値観は別の生き物
スーザンと妹のケイティは、性格も価値観もまるで正反対です。
それでも仲の良い姉妹として描かれていて、最初は「なんだか理想的な関係だな」と思いました。
けれど、ケイティがスーザンに「いろいろとうまくいってるの?」と尋ねる場面では、スーザンがうんざりした様子を見せます。
ケイティはすでに結婚して子どももいて、家族と穏やかに暮らしています。
一方のスーザンは、恋人はいるものの結婚には重きを置かず、自分の時間を自由に生きているタイプです。
スーザンがケイティと別れて車に乗り込み、ようやく一人になってほっとする描写が印象的でした。
彼女は妹のことを「自分の尺度で人を測ろうとする人」と評しています。
それでも仲良くしていられるのは、血のつながりゆえなのか、それとも諦めにも似た愛情なのか。
この姉妹の距離感がとてもリアルで、胸に引っかかりました。
この場面を読んで、ふと自分のことも考えました。
私も、うまくいっているかどうかを詮索されるのはあまり好きではありません。
仕事でも恋愛でも、うれしい話があれば自分から話すのに、突然そんな質問をされると落ち着かない気持ちになるのです。
もし私が「うまくいってない」と答えたら、相手はどうするつもりなんだろう。
聞いた側は大した慰めもできないし、聞かれた側はかえって傷ついてしまうかもしれない。
そう考えると、「うまくいってる?」という一言は、結構無神経な問いかけなのかもしれません。
スーザンとケイティのやり取りを読んで、そんなことを思いました。
スーザンは、ケイティとの関係を「良い友人同士」と表現しています。
けれど、ケイティやその家族について語る言葉にはどこか含みがあり、わずかにトゲを感じます。
こうした姉妹の微妙な距離感の描写が本当にリアルで、訳者の山田蘭さんの言葉選びも効いているのだと思います。
また、ナレーターの山口由里子さんの表現力もすばらしく、感情の温度差がある場面では、声のトーンの変化だけで二人の関係の機微が伝わってきました。
Audibleで気になった点
上巻の書評でも触れましたが、下巻でも「ながら聴き」は難しいと感じました。
特にSNSやネットニュースを見ながらだと耳が留守になってしまい、気がつくと何の話か分からなくなってしまいます。
それでも上下巻を通して聴くうちに、自分に合った聴き方が少しずつ分かってきました。
こちらの作品は、再生速度は1.2倍がちょうどよく、家事をしながらのときはイヤホンで聴いています。
PC作業をしながらのときは、最初こそ集中力が必要でしたが、慣れると聴きながら手も動かせるようになりました。
上巻では佐々木望さんが一人で多くの登場人物を演じ分けていましたが、女性キャラクターのセリフも声のトーンや話し方の工夫で、自然に聴き分けられました。
一方、下巻では山口由里子さんが男性キャラクターのセリフを読む場面で、一瞬誰の発言か迷うこともありました。
声の高さを大きく変えるのは難しく、話し方だけで男性らしさを出しにくいセリフもあるのだと思います。
こうした違いも含めて、朗読ならではの面白さかもしれません。
総評
全体を通して読みやすいと思いますが、好みは分かれるかもしれません。
作中には、イギリスを中心とした海外の文化や宗教、街並み、考え方、アナグラム(文字を並べ替えて別の言葉を作る遊び)、さらに他作品からの引用やオマージュなどが、説明なしに当たり前のように登場します。
そのため、海外作品をあまり読み慣れていない方には、少しとっつきにくく感じるかもしれません。
それでもストーリーは圧倒的に面白く、展開がまったく読めません。
上巻の冒頭では、スーザンが『カササギ殺人事件』を読んで人生が変わってしまったと語る場面がありました。
その後、上巻はすべてアラン・コンウェイ作の作中作『カササギ殺人事件』として進むため、「下巻でスーザンの物語が回収されるのだろう」とは思っていました。
それでも、まさかこんな展開になるとは誰も予想できないと思います。
下巻では、見事に伏線が回収されます。
作中作『カササギ殺人事件』そのものの真相に加え、作者アラン・コンウェイの死の真相までが明らかになる構成は圧巻でした。
また、上巻の作中作パートを佐々木望さんの声で楽しんだあと、下巻で山口由里子さんの声に切り替わることで、「物語の中の物語」から「現実のスーザンの物語」に戻ってきた感覚が生まれます。
これもAudibleならではの面白さだと思いました。
上下巻を通して聴くことで初めて味わえる仕掛けなので、まだの方はぜひ上下巻続けて聴いてみてください。


