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本 村上春樹 🙂🙂🙂🙂

【文庫本で読んでみた】アンダーグラウンド / 村上 春樹

こんにちは!ヤマモトサオリです。

みなさんは「地下鉄サリン事件」をご存じでしょうか。

1995年(平成7年)3月20日の朝、オウム真理教の信者たちが、東京の地下鉄の複数の路線で猛毒のサリンをまいた無差別テロ事件です。
14人が亡くなり、6,000人以上が負傷するという、日本の歴史に残る大事件となりました。

当時をリアルタイムで知っている世代の方もいれば、まだ生まれていなかったという方も多いかもしれません。

私自身も当時は幼く、事件の詳細を理解できる年齢ではありませんでした。
それでも、「とにかく大変なことが起きた」と感じさせるニュース映像だけは、今でも強く記憶に残っています。

事件から30年以上が経った今も、その爪痕は深く残っています。
決して風化させてはいけない出来事だと思います。

そんな事件に真正面から向き合った作品がこちら。
『アンダーグラウンド』(著者:村上春樹)です。

こんな人におすすめ!

・地下鉄サリン事件を当事者の声で知りたい人
・体験者の声から社会を見つめたい人
・読後に思索が広がる作品を探している人

あらすじと補足

地下鉄サリン事件の被害者やその家族など、62人に村上春樹氏が直接インタビューを行い、その証言をまとめたノンフィクション作品です。

事件当日の体験や後遺症、そして日常生活に戻ろうとする姿が、一人ひとりの言葉で語られています。

それぞれの証言の前には、その人の仕事や暮らしぶりなどが短く紹介されています。
そのため、「被害者」とひとくくりにするのではなく、それぞれに人生がある一人の人間として読み進めることができます。

村上春樹さんといえば小説のイメージが強かったので、ノンフィクションに真正面から取り組んでいることに驚きました。

また、本書はインタビューをただ記録するだけではありません。
巻末には、事件の意味や日本社会への影響について村上春樹さんが考察した文章も収められています。
作家ならではの視点が感じられる一冊です。

印象に残った場面

被害者たちの事件当日の行動

特に印象に残ったのは、被害者の方たちが事件当日に「いつもとは違う行動」をしていたという証言が多かったことです。

たとえば…

  • ふだんは地下鉄を使わないのに、その日に限って乗ってしまった。
  • いつもと同じ時間・同じ扉から乗るはずが、その日に限って違う扉を選び、結果的に軽傷で済んだ。
  • 駅へ向かうバスが遅れたため1本遅い電車に乗り、事件に巻き込まれてしまった。

こうした偶然のおかげで助かった人もいれば、反対に事件に巻き込まれてしまった人もいます。
日常の中のほんの小さな選択や出来事が、人生を大きく変えてしまうのです。

誰にでも起こりうることだからこそ、とても恐ろしいと感じました。

当時の働き方と心のケア

当時は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)という言葉もまだ一般には広く知られていませんでした。
働き方やメンタルヘルスへの理解も今ほど進んでいなかったことが、証言からうかがえます。

  • 事件に巻き込まれて大変な経験をしたあとでも、残業するのは当たり前。
  • 体調が悪くても、倒れるほどでなければ働くのが当たり前。
  • 会社に強制されたわけではなく、自分から進んでそうするのが当たり前。
  • つらくても、責任感から出社するのが当たり前。

そう考える人が多かったようです。

今でもこうした考え方を持つ人はいると思いますが、社会全体としては「自分の心身を一番大切にしよう」という風潮に変わってきていると感じます。

当時は、自分の心身よりも仕事を優先するのが当たり前の時代だったのだと思います。

事件当日も、体調が悪いにもかかわらず「とにかく仕事に行かなければ!」と考えた人が大半でした。
「会社どころではないと諦めた」という人が少数だったことも、印象に残っています。

人によって違う? サリンのにおい

サリンのにおいについては、本当にさまざまな証言がありました。

  • 無臭だったという人。
  • シンナーのにおいがしたという人と、シンナーのにおいではなかったという人。
  • ドブネズミのようなにおいがしたという人。
  • 甘いにおいがしたという人。

同じ空間で起きた出来事なのに、感じ方は人によってバラバラだったのです。

なぜここまで差があるのかについては、本書では触れられていません。
それでも、においの感じ方の個人差や、極限状態での感覚の揺らぎを強く意識させられました。

証言の食い違いは混乱を招く一方で、当事者の体験のリアルさを、かえって際立たせているようにも思えます。

被害者の気持ち

被害に遭った方々は、当然オウム真理教に対して強い怒りを抱いているものだと思っていました。
実際に本書でも、「絶対に許せない」「今でも怒りが収まらない」と語る人は少なくありません。

しかし一方で、

  • 「それほど怒りはない」
  • 「やったことは許せないけれど、自分の気持ちはよくわからない」
  • 「特に憎んではいない」

と語る人も多く、驚きました。

あれほど大きな被害をもたらした事件にもかかわらず、感情の受け止め方は一様ではありませんでした。

むしろ、出来事があまりにも異常すぎて、怒りを持つことすら簡単ではなく、心の整理が追いつかないのかもしれないと感じました。

この点からも、改めてすべてにおいて異様な事件だったのだと感じました。

総評

4 out of 5 stars

本書は1997年3月20日、地下鉄サリン事件からちょうど2年後に刊行された作品です。
長い年月が経った今、インタビューに答えていた方々の「その後の人生」が強く気になりました。

重い後遺症を負った明石さんは、少しでも回復できたのだろうか。

「定年後は鹿児島で妻と余生を過ごしたい」と語っていた橋中さんは、今も鹿児島で暮らしているのだろうか。

「自分が生きているうちに麻原を死刑にしてほしい」と話していた当時65歳の石倉さんは、ご健在なのだろうか。
麻原彰晃(オウム真理教の教祖)の死刑は2018年に執行されましたが、石倉さんはその知らせをどんな気持ちで受け止めたのだろうと考えてしまいます。

それぞれの声があまりにも生々しくて、読み終えたあとも「この人たちはこの後どうなったのだろう」と、何度も気になりました。

事件そのものの衝撃はもちろんですが、事件に巻き込まれた「一人ひとりの人生」を垣間見せてくれる点が、本書の大きな意義だと感じました。

ちなみに、村上春樹氏は本書の翌年に、オウム真理教の信者や元信者へのインタビューをまとめた続編『約束された場所で』も刊行しています。
被害者側と信者側の両方の声を知ることで、事件をより立体的に考えられると思うので、あわせて読んでみたい一冊です。

  • この記事を書いた人

ヤマモトサオリ

こんにちは!books and iinedaysの管理人、ヤマモトサオリです。
餃子とカツカレーとラーメンが好きです。よろしくお願いします。