『ふくわらい』(西加奈子)の書評アイキャッチ画像

本 西加奈子 🙂🙂🙂

【文庫本で読んでみた】ふくわらい / 西 加奈子

こんにちは!ヤマモトサオリです。

みなさんは「お正月の遊び」と聞いて、何を思い浮かべますか?
コマ回しに凧揚げ、羽根つき、すごろく、そして福笑い。

以前、年越しを友人宅で過ごしたときは、おせちの付録に付いていた「シェフの顔の福笑い」で、大人たちが大盛り上がり。
大人になっても、意外と楽しいものですね。

今回ご紹介するのは、そんなお正月の遊びをタイトルにした一冊。
『ふくわらい』(著者:西加奈子) です。

こんな人におすすめ!

・他者との関わりから、自分を見つめ直したい人
・好きなことをして生きていきたいのに、自信がない人
・自分の存在意義がわからないという人

あらすじと補足

主人公は、鳴木戸 定(なるきど さだ)という少し変わった名前の女性。
名付け親は紀行作家の父で、フランスの作家マルキ・ド・サドをもじった名前です。

定は1月1日生まれ。
幼い頃に母から与えられた福笑いに夢中になり、大人になった今でも、人の顔を見ると頭の中で目や鼻、口を動かして福笑いをしてしまう癖があります。
タイトルの『ふくわらい』は、この定の癖から来ています。

5歳で母を、12歳で父を亡くした定。
それまでの数年間、父の取材旅行に連れられて世界各地を巡り、普通の子どもでは考えられないような体験を重ねて育ちました。
そんな特殊な生い立ちもあり、定は感情を表に出すことがほとんどありません。
誰かを好きになることも、泣くことも知らないまま大人になり、25歳の今は出版社で編集者として働いています。

そんな彼女が担当することになったのが、プロレスラーで作家でもある守口 廃尊(もりぐち ばいそん)という男性。
彼をはじめとする周囲の人々と関わる中で、定が少しずつ「感情」を知っていく… というストーリーです。

定に毎日のように電話をかけてくる、目の不自由な男性・武智次郎。
なかなか打ち解けられずにいた後輩編集者の小暮しずく。
風変わりな人たちとの出会いが、定の世界を少しずつ変えていきます。

本作は「人間らしさとは何か」というテーマを、独特のユーモアと温かさで描いた作品。
2013年には、第1回河合隼雄物語賞を受賞しています。

定の姿は一見不思議ですが、私たちにも「自分の気持ちをどう扱えばいいのかわからない瞬間」がありますよね。
彼女の変化を通して、当たり前のようで難しい「生きること・感じること」を、改めて考えさせられる作品です。

カバーの絵が素敵

著者の西加奈子氏は、本文だけでなくカバーの装画も手がけています。
カバー絵も見どころのひとつ。

私は本屋さんでこのカバー絵に一目惚れし、中身をよく知らないまま表紙だけで選ぶ、いわゆる「ジャケ買い」をしてしまいました。

作中の定は、全身に色鮮やかな動物や昆虫などのタトゥーを入れています。
実はこのカバー絵、西氏がそのタトゥーをイメージして描いたものだそうです。

ただ、よく見るとカバー絵にはカバの姿も。
定のタトゥーにカバは登場しないので、「カバー」だからあえてカバを描いたのでしょうか。
もしそうだとしたら、なんとも遊び心のある表紙です。

読み終えてから改めて表紙を眺めると、定の体を見ているような気持ちになります。
物語とカバーがつながっている、とてもおもしろい仕掛けだなと感じました。

アクが強い、でもそれだけじゃない

人の肉を食べる話に、大便の話、性器のことまで…
とにかくアクの強い描写が盛りだくさんです。

正直「うわ、これはちょっと…」と思う場面もありました。
それでも不思議と、ただグロテスクで下品なだけでは終わらないんですよね。

むしろ言葉選びが丁寧だからこそ、妙に知的で、どこか美しくすら感じてしまう。
下品なのに上品、そんな二面性がクセになります。

定は、編集者という仕事柄、言葉をとても大切に扱う人物です。
過激な場面であっても、定の視点を通すと、淡々と正確な言葉で語られていきます。
そのギャップこそが、本作ならではの読み心地を生んでいるのだと思います。

読んでいて嫌悪感だけでなく、「なんだ、この独特の世界観は!」と引き込まれる。
唯一無二の語り口に圧倒されました。

プロレスラー・守口廃尊

廃尊は、現役のプロレスラーでありながら、週刊誌でコラムを連載している人物です。
その連載を1冊の本にまとめることになり、定が担当編集者として彼と関わり始めます。

そして廃尊は、うつ病を患い、自殺未遂を繰り返してしまう人物でもあります。

「強靭な肉体を持つプロレスラー」としての顔と、「心に弱さを抱えた一人の人間」としての顔。
その2つが対比されることで強烈な人間らしさが浮かび上がり、とても良い味を出していました。

特に印象的だったのは、彼がリング上で本の原稿を暗唱するシーン。
肉体と精神、強さと脆さが同居した姿に、心を揺さぶられました。

リングに立つことを怖いと感じながらも、思いを言葉にせずにはいられない廃尊。
体ひとつで生きているように見える彼が、誰よりも言葉を必要としている姿は、感情を知らなかった定の心も動かしていきます。

作中で誰よりも輝いていて、一番「人間らしい」存在だと思いました。

総評

3 out of 5 stars

前述のとおりアクが強く、かなり過激な作品です。
性に関する描写も多めでした。

私は正直、あまり得意なジャンルではなく…
登場人物も風変わりな人ばかりで、少しついていけないと感じる部分もありました。

それでも、守口廃尊は強烈に印象に残るキャラクター。
彼の存在だけでも、読む価値があると思います。

そして、感情を知らなかった定が、人との関わりの中で少しずつ変わっていく姿には、静かな感動があります。
過激な描写に戸惑いながらも、最後まで読んでよかったと思える一冊でした。

人生に悩みを抱えている方に読んでもらいたい一冊。
きっと勇気をもらえる作品だと思います。

  • この記事を書いた人

ヤマモトサオリ

こんにちは!books and iinedaysの管理人、ヤマモトサオリです。
餃子とカツカレーとラーメンが好きです。よろしくお願いします。