こんにちは!ヤマモトサオリです。
今回ご紹介するのは、わたしたちが生まれるずっと前、昭和初期に書かれた作品。
『蟹工船・党生活者』(著者:小林多喜二)です。
本作は複数の出版社から刊行されていますが、私は今回「新潮文庫版」を読みました。
本書には、1929年に発表された『蟹工船』と、1932年に書き上げられ、著者の死後の1933年に発表された『党生活者』の二作が収められています。
どちらも「プロレタリア文学の傑作」と称される作品です。
プロレタリア文学とは、大正末期から昭和初期にかけて盛んになった文学です。
労働者の立場から、社会の不平等や過酷な労働の実態を描いています。
『ウシジマくん』や『カイジ』に出てくるタコ部屋の話も、現代のプロレタリア文学… たぶん。
ちなみに『蟹工船』はAudible版もありますので、読む時間が取りにくい方は、聴く読書も選択肢にどうぞ。
こんな人におすすめ!
・昭和初期の時代背景と、人々の姿を知りたい人
・労働や格差、政治運動の歴史に関心がある人
・過酷な環境下で生きる人々の物語を知りたい人
あらすじと補足
『蟹工船』とは、カニを獲り、その場で缶詰に加工する設備を備えた船のことです。
毎日16時間にも及ぶ過酷な労働、横暴な監督、不衛生な船内。
飢えや暴力が横行し、死者まで出る環境の中で、それでも団結して立ち上がろうとする労働者たちの姿を、実際の出来事をもとに描いた物語です。
物語は、函館の港から蟹工船が出航する場面で始まります。
冒頭の「おい地獄さ行ぐんだで!」というセリフは、日本文学の書き出しの中でもよく知られた一文です。
ここから、船の上での「地獄」のような日々が描かれていきます。
もう一作の『党生活者』は、当時は非合法だった共産党の一員として活動する人々の、苦悩と葛藤を描いた作品です。
主人公は、軍需工場で臨時工として働きながら、工場の中に党の組織をつくろうとする共産党員の男性。
警察の目を逃れて身を隠しながら、ビラをまくなどして労働者たちに働きかける活動家たちの姿が描かれます。
ちなみに『党生活者』は、1932年に書き上げられたものの、内容が当局ににらまれることを恐れて、すぐには発表されませんでした。
著者の死後、検閲を避けるために「転換時代」という別の題名で、しかも伏字(×× などで文字を伏せること)だらけの状態で雑誌に掲載されたそうです。
本来の題名で全文が読めるようになったのは、戦後の1946年のことでした。
作品そのものが、当時の言論弾圧を物語っているといえます。
……と、内容は重厚で読みごたえ十分なのですが、読み進めるにはそれなりの根気が要る一冊でもあります。
文体が昭和初期のままなので、現代の小説に慣れた頭で読むと、「ここ、どういう意味?」「一文が長い…」とあちこちでつまずきます。
正直なところ、サクサクとは読み進められませんでした。
ただ、その読みづらさこそが、当時の言葉遣いや空気感をそのまま封じ込めている証拠なのかもしれません。
しんどいながらも、時代の息づかいを直接味わえる、貴重な読書体験でした。
【蟹工船】印象に残った場面
見慣れない言葉が多い
「くさめ」や「いけホイド」など、聞き慣れない言葉が次々に出てきます。
私が読んだ新潮文庫版には注釈がなかったので、Google先生で調べながら読み進めました。
他の出版社の版には注釈がついているかもしれませんが、そこまでは確認できていません。
調べてみると、意味はこんな感じでした。
- くさめ = くしゃみ
- いけホイド = 「この乞食め」といった、相手をののしる言葉(「ホイド」は東北・北海道の方言で乞食のことらしい)
また、「エレヴエター(エレベーター)」「オホツック海(オホーツク海)」など、現代とは異なる表記もあちこちに登場します。
当時の人たちが外国の言葉や地名をどう聞き取り、どう書き表していたのかが垣間見えるようで、面白く感じました。
読みにくさの原因でもありますが、こうした表記に出会うたびに、「100年近く前の作品を読んでいるんだな」と実感させられました。
バットが賞与?
逃げ出した労働者を捕まえた者への褒美として、「バット2つ、手拭1枚を賞与としてくれるべし」という張り紙が出てくる場面があります。
私は最初、これを野球のバットだと思い込み、「なぜここで野球?」と頭の中が「?」でいっぱいになりました。
正しくは、当時のタバコの銘柄「ゴールデンバット」のことだそうです。
人ひとりを捕まえた褒美が、タバコと手拭い程度だったという事実。
労働者の命がいかに軽く扱われていたかを思い知らされ、あらためて衝撃を受けました。
虫と病、不衛生な現場のリアルな描写
読む前から、レビューなどで「表現が強烈」という話は見かけていましたが、実際に読むとやはり衝撃的でした。
虱(しらみ)や南京虫が大量に発生する様子や、死体に蛆や蝿がたかる描写など、目を背けたくなるような場面が続きます。
なかでも「服に大量の虱がいる」というくだりにはゾッとしました。
当時の蟹缶にも、実際に虱が混じっていたのでは… とつい想像してしまい、背筋が寒くなりました。
作中には、脚気(かっけ)に苦しむ工員の姿も描かれています。
脚気はビタミンB1の不足によって起こる病気です。
今の日本ではほとんど耳にしませんが、当時は偏った食生活が原因で、決して珍しい病気ではありませんでした。
手足のしびれやむくみから始まり、進行すると心不全を起こして命を落とすこともある、恐ろしい病気です。
蟹工船という閉ざされた環境で、満足な食事も医療も与えられないまま働かされ続ければ、脚気にかかるのも当然だったのだろうと思います。
実際に作中では、劣悪な環境の中で命を落としていく工員たちの姿も描かれており、その生活の過酷さに胸が締めつけられました。
【党生活者】印象に残った場面
『蟹工船』と比べると…
『蟹工船』のようなグロテスクな描写や、思わず目を見張るような山場は、こちらにはほとんどありません。
物語は終始淡々と進み、正直かなり読み進めるのが大変でした。
昭和初期特有の長い構文も相まって、2〜3行読んでは眠くなり、文章が頭に入ってこず、集中力が切れる… を繰り返しました。
ページ数は多くないのに、読み終えるまで10日近くかかってしまいました(汗)
『蟹工船』も決して読みやすい作品ではありませんが、衝撃的なシーンが多いおかげで、まだ記憶に残りやすかったように思います。
それに比べると『党生活者』は物語の起伏が少なく、そのぶん読みにくさがより際立った作品でした。
感動的なシーン
「起伏が少ない」と書きましたが、ひとつだけ強く心に残った場面があります。
それは、長く会えずにいた息子と母親が、ようやく再会するシーンです。
当時は共産党の活動そのものが法律で禁じられていて、活動家は警察、特に思想犯を取り締まる「特別高等警察(通称:特高)」に常に目をつけられていたそうです。
もし家族と会っているところを見つかれば、そこから居場所や仲間の情報が漏れて逮捕されたり、時には拷問を受けたりする危険もあったのです。
実際、著者の小林多喜二自身も、1933年に警察に逮捕され、拷問によって命を落としています。
そうした時代だったからこそ、母親は再会を喜びながらも、「自分と会ったことで、息子を危険にさらしてしまうのではないか」という不安に駆られ、早々に会うのを切り上げようとします。
せっかくの再会を素直に喜べないその姿には、母親としての深い愛情と苦しさが凝縮されているように感じました。
淡々とした物語全体の中で、このシーンだけは強く印象に残っています。
私はこの場面を読んで、「会いたいのに、会えば相手を危険にさらしてしまう」という状況の残酷さを思いました。
今なら電話一本、メッセージ一通で気軽に連絡が取れますが、当時の活動家とその家族にとっては、顔を見ることさえ命がけだったのだと、あらためて感じさせられました。
総評
読みにくい箇所は多々ありましたが、実際の出来事や著者自身の体験をもとにしているだけあって、ノンフィクションに近い迫力を随所に感じました。
ただ、昭和初期の作品ということもあり、文章だけで内容を理解するのが難しい場面も多く、読み進めるのにかなり時間がかかりました。
全体としては、「当時の人々の過酷な暮らしを知るうえで貴重な作品だけど、現代の読者にはやや敷居が高い一冊」というのが、私の正直な感想です。
📚 活字がしんどい人には「漫画版 蟹工船」がおすすめ
実は私も、読書の途中で何度か挫折しかけました。
そこで並行して読んでいたのが、漫画版の『蟹工船』です。
活字だけではイメージしづらかった労働環境や登場人物たちの姿が、漫画で一気に視覚化され、作品世界を理解する大きな助けになりました。
監督の横暴さや工員たちの過酷な労働、虫がわく不衛生な現場なども、絵で見るとより生々しく伝わってきます。
「原作は気になるけど、昭和初期の文体はハードルが高そう…」という方は、まず漫画版から入ってみるのもおすすめです。
原作の重いテーマはそのままに、格段に読みやすくなっています。
『党生活者』も漫画があれば、もっと理解が深まったと思うのですが、残念ながら見当たりませんでした。
🎧️『蟹工船』はAudibleでも配信中!
今回、私は文庫本で読みましたが、『蟹工船』にはAudible版もあります。
朗読版のほかに、声優さんたちが演じる音声ドラマ版など、複数のバージョンが配信されているので、試聴して好みの声で選ぶのも楽しそうです。
ちなみに『党生活者』は、Audible版もまだ出ていないようです。
私も『蟹工船』のAudible版を聴いてみようと思っているので、感想を書けたら別記事でお届けします。
【関連スポット】函館・北洋資料館に行ってきました
後日、函館旅行のついでに函館市北洋資料館にも行ってみました!
漁船の模型や、実際に船で作られていたカニの缶詰、北の海の生き物の剥製などが展示されていて、想像以上に見応えがありました。
『蟹工船』の物語が函館の港から始まることを思うと、この街で北洋漁業の歴史に触れられるのは、なんだか感慨深いものがありました。
なかでも面白かったのが、北洋漁業の船の操舵室を再現したシミュレーターです。
荒波を越える船の揺れを実際に体感すると、北の海での仕事がいかに過酷だったかが、リアルに伝わってきました。
北洋資料館は、五稜郭公園のすぐ南側、道立函館美術館の隣にあります。
入館料は一般100円で、併設の駐車場が2時間無料になるので、そのまま五稜郭の観光もできます。
『蟹工船』を読んでいない方も、資料館めぐりに特別興味がない方も、意外と楽しめる場所だと思います。
函館観光の際は、ぜひ立ち寄ってみてくださいね。
