こんにちは!ヤマモトサオリです。
今回ご紹介する本は、『カササギ殺人事件(下)』(著者:アンソニー・ホロヴィッツ/訳:山田蘭)です。
海外作品らしい重厚な構成と、巧みなストーリーテリングが魅力のシリーズですが、上巻と下巻の分け方が本当に秀逸で、上巻のラストで「えっ、どういうこと!?」と驚かされた方も多いのではないでしょうか。
ちなみに、上巻の記事はこちらです。まだ読んでいない方は、ぜひ上巻からどうぞ!
物語はいよいよ後半へ突入。私は下巻もAudibleで聴いてみました。
語り手は上巻に引き続き、山口由里子さんと佐々木望さん。
上巻は作中作がメインだったのに対し、下巻は「わたし」スーザンがメインです。
山口由里子さんの語りにより、スーザンの焦りや戸惑いが淡々と伝わってくることで、じわじわと緊迫感が増していく感覚があり、活字とはまた違った没入感を味わえました。
特に、事件の真相が畳みかけるように明かされていく終盤は、耳で聴くことでスピード感がそのまま伝わってきます。
再生時間は13時間と長いですが、続きが気になって、作業をしながら一気に聴き終えてしまいました。
上巻をまだAudibleで聴いていない方は、ぜひ上下巻通して聴いてみてほしいです。
今なら30日間無料体験があるので、上下巻セットで試すにもちょうどいいタイミングだと思います!
こんな人におすすめ!
・どんでん返し系ミステリーが好きな人
・伏線回収の快感を味わいたい人
・フィクションと現実が交差する物語に惹かれる人
あらすじと補足
上巻では、編集者として働く女性・スーザンが、大人気ミステリーのアティカス・ピュントシリーズ最新作『カササギ殺人事件』の原稿を読み始めるところから物語が始まりました。
大部分はその作中作である『カササギ殺人事件』の世界が描かれ、絶妙なところで上巻が終わるという、まさに「続きが気になって仕方ない!」という展開でした。
そして下巻は、スーザンが「物語が途中で終わってる!」と憤慨する場面から始まります。
まさに読者の私たちと同じ気持ちで、スーザンの困惑や焦りにそのまま感情移入してしまう、なんとも巧いギミックです。
その直後、作中作の作者であるアラン・コンウェイが突然亡くなったことが判明します。
スーザンは「未完の原稿の行方」と「アラン・コンウェイの死の真相」という二つの謎を追いながら、真実に近づいていく… というストーリーです。
印象に残った場面
> 作中で紹介された本が気になる
私は小説の中で紹介された本が気になって、つい読んでみたくなるタイプです。
本書でも、上下巻を通して実在の作品名がいくつか登場します。
中でも気になったのが、イアン・マキューアンの『愛の続き』という作品。
作中では「高いところから落ちた人間の身体がどうなるか、すばらしく詳細な描写がある」と紹介されていて、思わず調べてしまいました。
どうやら、同性の相手からの執着に悩まされる男性を描いた物語で、あまりハッピーエンドではない模様。
でも「転落死した遺体のすばらしい描写」という一文には、正直ちょっと興味をそそられました。
レビューを見ると「文章がすごく読みやすい」と高評価も多く、機会があればぜひ読んでみようと思いました。
> アティカス・ピュントの容姿
作中で「シンドラーのリスト」で知られるベン・キングズレーが、アティカス・ピュントのイメージ像として挙げられる場面があります。
スーザンはこれを「有名俳優のイメージを借りるなんて、ずいぶん安直だ」というようなニュアンスで、あまり気に入っていない様子でした。
でも私はというと、思わずベン・キングズレーを検索せずにはいられませんでした。
すると、ハットを被った白黒写真が出てきて、まさに私が想像していた「ピュント像」そのもの!
少し小柄で、整ったスーツ姿に几帳面で理知的な雰囲気。
一見すると会計士に見える風貌で、あまり感情を表に出さないタイプ。
けれど言葉の一つ一つには確かな重みがあり、相手の本音を静かに見透かすような眼差しが印象的です。
作中のセリフや立ち居振る舞いを思い出しながら、「確かにこの人ならピュントだ」と納得してしまいました。
キャラクターの姿が読者それぞれの頭の中に立ち上がる瞬間って、読書の醍醐味のひとつですよね。
> 血は繋がっていても、価値観は別の生き物
スーザンと妹のケイティは、性格も価値観もまるで正反対です。
それでも仲の良い姉妹として描かれていて、最初は「なんだか理想的な関係だな」と思いました。
けれど、ケイティがスーザンに「いろいろとうまくいってるの?」と尋ねる場面があり、スーザンがうんざりした様子を見せます。
ケイティはすでに結婚して子どももいて、家族と穏やかに暮らしている。
一方のスーザンは恋人はいるものの、結婚には重きを置かず、自分の時間を自由に生きているタイプです。
スーザンがケイティと別れて車に乗り込み、ようやく一人になってほっとする描写が印象的でした。
彼女は妹のことを「自分の尺度で人を測ろうとする人」と評しています。
それでも仲良くしていられるのは、血のつながりゆえなのか、それとも諦めのような愛情なのか。
この姉妹の距離感がとてもリアルで、胸に引っかかりました。
この場面を読んでいて、ふと自分のことも思いました。
私も、うまくいっているかどうかを詮索されるのはあまり好きではありません。
仕事でも恋愛でも、嬉しい話があれば自分から話すのに、突然そんな質問をされると落ち着かない気持ちになるのです。
もし「うまくいってない」と答えられたら、この人はどうするつもりなんだろう。
大した慰めもできないし、かえって傷つけてしまうかもしれない。
そう考えると、「うまくいってる?」という一言は、案外無神経な問いかけなのかもしれません。
スーザンとケイティのやり取りを読んで、そんなことを思いました。
スーザンは、ケイティとの関係を「良い友人同士」と表現しています。
けれど、スーザンがケイティやその家族のことを語るとき、どこか含みを持たせた言葉が多く、わずかにトゲを感じます。
男性作家の手によるものとは思えないほど、姉妹の微妙な距離感の描写が本当にリアルで、訳者の山田蘭さんの言葉選びも効いているのだと思います。
また、語り手の山口由里子さんの表現力もすばらしく、感情の温度差がある場面では、声のトーンの変化だけで関係性の機微が伝わってくるので、文章を読むのが苦手な方にはAudibleは本当におすすめです。
気になった点
上巻の書評でも触れましたが、下巻でも「ながら聴き」は難しいですね。
特にインスタを見ながら、ネットニュースを見ながら、というのは耳がOFFになりますので、気がつくと何の話かわからなくなってしまいます。
それでも上下巻を通して聴くうちに、自分に合った聴き方が少しずつ分かってきました。
再生速度は1.2倍がちょうどよく、家事をしながらのときはイヤホン、PC作業をしながらのときは最初は集中力が必要でしたが、慣れると聴きながら手も動かせるようになりました。
上巻では佐々木望さんが一人で多くの登場人物を演じ分けていましたが、女性キャラクターのセリフでも声のトーンや女性らしい喋り方で、自然に聴き分けられました。
一方、下巻で山口由里子さんが男性キャラクターのセリフを引用する場面では、声域の都合上そこまで低くはしづらく、喋り方でも男性らしさを出しにくいセリフのため、一瞬誰の発言か迷う瞬間もありました。
こうした違いも含めて、朗読ならではの面白さかもしれません。
総評
> 
全体を通して読みやすいと思いますが、好みは分かれるかもしれません。
イギリスを中心とした海外の文化や宗教、街並み、思考、アナグラム、そして他作品からの引用やオマージュなどが、まるで日常のように描かれています。
そのため、海外作品をあまり読み慣れていない方にとっては、少しとっつきにくく感じるかもしれません。
それでもストーリーは圧倒的におもしろく、展開が読めません。
上巻では冒頭でスーザンが「『カササギ殺人事件』を読んで人生が変わってしまった」と語る場面がありました。
その後、上巻はすべて「アラン・コンウェイ作『カササギ殺人事件』」という作中作として進むため、「下巻でスーザンの物語が回収されるのだろう」とは思っていたのですが、まさかこんな展開になるとは、誰も予想できないと思います。
下巻では、見事に伏線が回収されます。
作中作『カササギ殺人事件』そのものの真相に加え、作者アラン・コンウェイの死の真相までも明らかになる構成は圧巻でした。
また、上巻の作中作パートを佐々木望さんの声で楽しんだあとに、下巻で山口由里子さんの声に切り替わることで、「物語の中の物語」から「現実のスーザンの物語」に戻ってきた感覚が生まれるのも、Audibleならではのおもしろさだと思いました。
上下巻通して聴くことで初めて味わえる仕掛けなので、まだの方はぜひ無料体験で上下巻セットで聴いてみてくださいね!
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