町田康著『告白』の表紙画像

おすすめ! 町田康 🙂🙂🙂🙂

告白 / 町田 康

本好きの皆さんなら、積読本を結構蓄えている方が多いと思います。
中には、買ってから何年も放置… なんてこともありますよね。
どこで手に入れたか忘れてしまった本もあれば、逆に、出会った日のことを昨日のように鮮明に覚えている本もあるのではないでしょうか。

今回ご紹介するのは大長編小説、『告白』(著者:町田康)です。

実はこちらの本、かなり前に購入したものの、ずっと手を付けられずにいました。
買った日のことはよく覚えていて、古屋さんで数冊が飛び出すように置かれていたのですが、本書の白い表紙が目に留まり、惹かれたのです。
そのときは「大長編を読んでみたい!」という気分だったのを思い出します。

そして先日、書店でリニューアルされた装丁と帯を見かけまして
「読むなら今でしょ!」と背中を押されたような気持ちになりました。笑

ヤマモト

こんな人におすすめ!

・分厚い長編でもテンポよく読みたい人
・実際の事件を題材にした小説に興味がある人
・人間心理を深く描いた物語を探している人

あらすじと補足

本作は、明治二十六年に実際に起きた「河内十人斬り事件」を題材にしています。

主人公は城戸熊太郎。
飲酒・賭博・女遊びに明け暮れる無頼者で、どうしようもない人間ながらも、思慮深さや根の優しさが垣間見え、どこか憎めない人物です。

熊太郎は弟分の谷弥五郎と共に、恋や金をめぐる恨みを晴らそうとし、やがて十人を斬り殺すという凶行に走ります。
最期は金剛山に立て籠もり、自決して生涯を閉じました。

たまに下品な表現があるものの、人間臭さがあり、ヤマモトはむしろそこに魅力を感じました。
アダルティーな描写はほとんどなく、大長編でありながらもサクサク読み進められます!

印象に残った場面

育て方

作中には、「ちやほや育てると、あほのくせに自分はかしこいと思い込む自信満々のあほが誕生する。罵倒されて育つと、おのれの身の程を弁え、なにくそと思う気持ちがちょうどよくブレンドされていい感じに育つ」…といったような一節があります。

ただ、ヤマモト自身はどちらかといえば「罵倒されて育った側」の人間なので、この考えにはうなずけませんでした。

たしかに「なにくそ」という気持ちは養われたかもしれませんが、同時に「身の程を弁えすぎて自分を大事に思えない」という感覚も強く残っています。

やはり何事もバランスが大事だと感じます。

子育て経験がないので、わからないんですけどね😅

読点リズムと河内ことば

読んでいてまず気になったのは、読点の打ち方でした。
自分なら絶対に入れるだろうという箇所に読点がなく、逆に「ここに?」という場所に読点がある。
でも、不思議と読みにくさは感じません。
むしろリズムのある独特な文体に仕上がっているように思います。

安政〜明治時代の、河内国石川郡赤阪村字水分(現在の大阪府南河内郡千早赤阪村)が物語の舞台。
そこで繰り広げられるのは「河内ことば」と呼ばれるコテコテの関西弁で、思わずお笑い芸人・小籔千豊氏の口調を連想しました😆

ただ、方言が強いのは登場人物のセリフ部分だけ。
物語の語り手は標準語で書かれていて、セリフの意味を補ったり、現代的な「あるある」ネタで例えたりしてくれるので、安心して読み進められます。
結果として、大長編ながらも楽しくテンポよく読めました。

女性が着飾る理由

作中には「女が美しく装いたいのは自分が良い気分になりたいからである。他人が美々しく装った自分をみて美しいと思うのが気分がよいのである。 しかしたとえば自らの意思に反して売色を強要され、その際、嫖客の気分を盛り上げるために美々しく装うというのはこれは情けない話であろう」という記述があります。

ヤマモト自身も、恥ずかしながら思い当たる経験があります。
自分のためにオシャレを楽しむのではなく、彼氏や特定の誰かのために綺麗になろうとしたり、相手の機嫌を取るために自分を犠牲にしてしまったり。
結果として、逆にドン引きされたこともありました。

今になって思えば、まさにこの言葉の通り「情けない話」だったのだと思います。
若い頃はそこに気付けなかったなあ… と思いながら、しみじみ読みました😂

総評

4 out of 5 stars

最初から最後まで本当におもしろかったです!
解説を含めて全850ページに及ぶ大長編でしたが、熊太郎の幼少期から弥五郎との出会い、そして大量殺人に至るまでの流れが丁寧に描かれていて、一気に引き込まれました。

「弥五郎は、殺す奴は必ず殺す、と嘯きつつ、飯を食いつつ、仕込杖を振り回しつつ、屁をこくなど元気一杯であった」という文章がめちゃくちゃツボにハマって、同じところを何回も読み返してしまいました。笑

熊太郎の思想や妄言、現実離れした描写もあり、共感できる部分と全くわからない部分が入り混じっていて、その振れ幅がかえって人間の不可解さを際立たせていて、とても興味深く、おもしろいです。
人間の心理は実際よくわからないものですしね。
その複雑さをユーモラスに、時に残酷に描き切っている点が、この作品の大きな魅力だと思いました。

文体は独特なので、好みは分かれるかもしれませんが、それを含めて強烈に印象に残る一冊でした。おすすめ!