こんにちは!ヤマモトサオリです。
みなさんは、「呪い」は実際にあると思いますか?
私はわりと信じるタイプで、目に見えない世界や、科学では証明できないことはあると考えています。
なので、心霊スポットには絶対に行けません。
廃墟の、栄枯盛衰を感じさせる雰囲気は好きなのですが、実際に行きたいとは思わないですね。
今回紹介するのは、まさに「呪い」がテーマの作品『ガダラの豚【 Ⅰ 】』(著者:中島らも)です。
本作は【 Ⅰ 】〜【 Ⅲ 】の3部作で、第1部のAudibleでの再生時間は7時間35分です。
朗読は俳優の山内圭哉さんが担当されています。
実はこの作品、積読がたくさんあるにもかかわらず、勢いで書籍を全巻買ってしまいました(しかも定価!)
ところが、なかなか頭に入ってこず、読み進められずにいました。
そんなとき、Audible版があることを知って、聴いてみることにしたのです。
前回のAudibleチャレンジ『カササギ殺人事件』は一度書籍で読んだことがありましたが、今回はまったく初めてのストーリー。
少し心配しながら聴き始めましたが、気づけば今、4周目を聴きながらこの記事を書いています(笑)
何度聴いてもまったく苦にならないほど、本当におもしろい作品でした!
こんな人におすすめ!
・インチキ超能力のタネ明かしが好きな人
・90年代のオカルトブームが懐かしい人
・長編でも一気読みできる、テンポの良いエンタメ小説を探している人
あらすじと補足
本作は、アフリカの呪術師のもとへ日本のテレビクルーが取材に訪れたことをきっかけに、登場人物たちが呪いに巻き込まれていくストーリーです。
超能力・新興宗教・呪術といった要素が絡み合いながら、日本とアフリカを舞台に物語が展開していきます。
主人公は、民族学者の大生部多一郎(おおうべ たいちろう)という男性。
アフリカの呪術医研究の第一人者でありながら、フィールドワークの資金を稼ぐため、テレビの超能力番組にも出演している「タレント教授」でもあります。
大酒飲みで飄々とした、どこか憎めないキャラクターです。
一方、妻の逸美(いつみ)は、8年前にアフリカで起きた気球事故で娘の志織(しおり)を亡くして以来、心を病んでいます。
その心の隙間に付け込むように、逸美は「奇跡」を売り物にする新興宗教にのめり込んでいきます。
第1部の舞台は、まだ日本国内です。
大生部は、番組で知り合ったミスター・ミラクルとタッグを組み、インチキ超能力の新興宗教から逸美を救おうと画策します。
アフリカ編が本格化するのは第2部からです。
『ガダラの豚』は、1994年に日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞した、中島らもさんの代表作として知られています。
「おもしろすぎて一気読みしてしまった」という声も多く、評価の高いミステリー・エンタメ作品です。
印象に残った場面
序盤の展開に戸惑うかも
物語は、日本の密教徒の師弟が何やら会話をしている場面から始まります。
この師弟が何者なのかは、しばらく明かされないため、初読の段階では何の話なのか全体像がつかめません。
謎に聖書の一文もあり、全容が掴めず、ここで挫折してしまう人も少なくないはずです。
先述したとおり、私自身も書籍版ではこの部分で「これは一体何の話なんだろう」と困惑し、一度は読むのを断念しました。
そこでAudibleに切り替えて、聴き直したという経緯があります。
しかも、密教徒の話が終わったと思ったら、今度は主人公の大生部と助手の道満が登場し、テレビ局を舞台にした場面へと切り替わります。
前情報がないまま読み始めた方は、ここでさらに戸惑ってしまうかもしれません。
ですが、ぜひそこを乗り越えて読み進めてほしいところです。
わかりにくいのは本当に冒頭だけで、そこさえ抜ければ、あとは一気に物語へ引き込まれていきます!
怪しさ満点の新興宗教
私は、新興宗教のようなどこか怪しい団体に、つい興味を惹かれてしまいます。
「好き」というと語弊がありますが、「気になって仕方がない」という感覚ですかね。
実際に入信したいとは微塵も思いませんし、信仰の自由を否定するつもりもありません。
怖いもの見たさというか、怪談を聞くときの感覚に近いのかもしれません。
少し個人的な話になりますが、私は20歳のとき、躁鬱のような状態と買い物依存気味になり、精神科に入院した経験があります。
借金は20〜30万円ほどでしたが、当時の私にとっては大金でした。
自分自身が怖くなり、仕事もすべて辞めて、1か月ほど入院することになりました。
そのときに受けたのが、「内観」という自分を見つめ直すための訓練です。
病室の中に屏風のようなもので囲いを作り、体育座りがやっとの狭い空間に一人で入って、記憶をどんどん過去へと遡っていきます。
そして、当時の出来事や感じたこと、今振り返って思うことを、ノートにひたすら書き出していくというものです。
本作に登場する新興宗教の合宿でも、これによく似た内観の場面が描かれていました。
私の場合は一人で狭い空間に入って行いましたが、作中では数人のグループで一緒に記憶を遡っていく手法です。
参加者全員が大泣きしてしまうシーンでは、当時の私も内観中に涙が止まらなかったことを思い出しました。
もともと内観は、ある宗教の修行法がルーツだそうです。
浄土真宗の一派に伝わる「身調べ」という修行を、吉本伊信という人物が宗教色を除いて誰でも取り組める形に改めたものらしいです。
そこから医療に応用されたのが、私が受けたような精神科での内観療法です。
同じ「自分を見つめ直す」というプロセスでも、使う側の目的次第で治療にもなれば、信仰への帰属意識を高める道具にもなり得る。
そう思うと、少し怖くなりました。
刺激の強い描写にご注意を
私は性的な描写が多い作品はどちらかというと苦手です。
ですが本作は「生」と「死」が重要なテーマになっているので、こうした表現は欠かせないものだと感じました。
第1部だけでなく第2部・第3部にもなかなか際どい描写があり、グロテスクな場面も多いので、苦手な方はご注意ください。
主人公の大生部は、作中で「鷲鼻に肛門口」と描写されるような、お世辞にも男前とは言えない顔立ちです。
一方、妻の逸美は、すらりとした美しい顔立ちの知的な女性です。
逸美が参加する新興宗教の合宿では、逸美の知人が教祖の口車に乗せられ、性的関係を持ってしまう場面が描かれます。
熱心な信者たちの中で逸美の美しさが際立っていたという描写や、教祖の世話係を任される場面もありました。
このまま泥沼の不倫展開になったら嫌だなぁと、ハラハラしてしまいました。
でも逸美が教祖とそうした関係になる描写はなく、彼女のキャラクターには好感が持てました。
一方の大生部には、逸美の主治医を務めるサイコセラピストの女医と関係があったことを匂わせる場面があります。
本作の時代背景は1990年代前半です。
美人の女医が患者の夫と関係を持っていたという設定には、いかにもフィクションらしいベタさと時代を感じました。
気球事故つながりで気になった本
本作では、大生部家の長女・志織が、8年前にアフリカで気球事故に巻き込まれたという痛ましい過去が語られます。
前回Audibleで聴いた『カササギ殺人事件』の下巻では、『愛の続き』(著者:イアン・マーキュアン)という作品が紹介されていました。
気球の墜落事故の描写がすばらしい、という内容だったのを覚えています。
気球事故つながりで『愛の続き』を思い出し、気になって探してみたのですが、残念ながらAudibleにはラインナップされていませんでした。
書籍かKindleなら読めるようなので、いつか手に取ってみたいと思っています。
総評
今回の『ガダラの豚【 Ⅰ 】』は、起承転結の「起」にあたる部分です。
終盤では、大生部一家がテレビクルーとともにアフリカへ向かうことが決まります。
生々しく痛々しい大乱闘の場面もありながら、この先どうなるのかとワクワクさせられる展開でした。
少しだけ気になった点が2つありました。
1つは先述したとおり、冒頭がやや頭に入ってきづらかったこと。
もう1つは、ミスター・ミラクルが教祖の奇跡をインチキだと証明する場面に少し無理を感じたことです。
真っ赤に熱した鉄棒を素手でしごいても火傷しない仕掛けも、煮えたぎる鍋からボールペンを素手ですくい上げる場面も、種明かしだけでは納得しきれませんでした。
気になる部分はありましたが、それでも「すごく良かった」と思える一冊です。
🎧️ Audibleで聴いた感想
朗読を担当されている山内圭哉さんの表現力の高さは、ぜひ伝えたいポイントです。
冗談めかしたセリフから投げやりなセリフ、怒りのこもったセリフまで、感情の乗せ方が巧みでした。
あえて感情を抑えた場面との使い分けも見事です。
女性キャラクターの「〜なのよ」という口調は、男性の声だとちょっと独特に聞こえるのですが、それもまたコミカルでおもしろいです。
実は山内さんは、1992年に中島らもさんと出会い、らもさんが主宰していた劇団「笑殺軍団リリパットアーミー」に所属していた方なのだそうです。
らもさんと深い縁のある役者さんが朗読していると知り、セリフひとつひとつの温度感にも納得がいきました。
冒頭でも触れたとおり、この感想は4周目を聴きながら書いています。
何度聴いても飽きず、聴くたびに味わいが増して愛着が湧いてくるのは、山内さんの朗読の力だと思います。
『カササギ殺人事件』は1.2倍速で聴いていましたが、本作は標準の1.0がとても心地良いテンポでした。
一方で、Audibleで聴きながら感想を書くのは、思っていた以上に難しいと感じました。
印象的な場面があってもその場で書き留めるのが難しく、クリップ機能やブックマーク機能もあまり活用できていません。
登場人物の名前の漢字がわからないもどかしさもありました。
感想を書くだけなら書籍で読むほうが断然早いのだろうと思います。
それでも、山内さんの朗読があってこそ、ここまで聴き込みたくなる作品だったのだと思います。
書籍で一度つまずいた私でも、Audibleなら最後まで楽しむことができました。
長編に尻込みしている方にこそ、おすすめしたい聴き方です。
第2部はいよいよアフリカ編です。
感想はこちらの記事でまとめています。

