こんにちは!ヤマモトサオリです。
たまには後味の悪い本も紹介したいと思います。
今回取り上げるのは、世界的に有名な問題作。
『時計じかけのオレンジ』(著者:アントニイ・バージェス / 訳:乾信一郎) です。
タイトルはおしゃれなのに、中身は暴力描写のオンパレード。
若者たちの無軌道で残酷な行為が、これでもかというくらい次々と描かれていきます。
1962年にイギリスで発表され、1971年にはスタンリー・キューブリック監督によって映画化。
名前だけは知っているという人も多いかもしれませんね。
後味の悪い小説、いわゆる「胸糞本」を語るうえで外せない一冊といえるでしょう。
そんな本をあえて読みたい日には、ぴったりの一冊かもしれません。
こんな人におすすめ!
・暴力と自由をめぐる衝撃作を読みたい人
・後味の悪い読書体験をあえて楽しみたい人
・登場人物に共感できなくてもOK!という人
あらすじと補足
主人公は15歳の少年アレックス。
夜な夜な仲間とつるんで盗みや暴行を楽しげに繰り返し、ついには殺人まで犯してしまう… なかなかにショッキングなストーリーです。
やがて仲間に裏切られて逮捕され、アレックスは刑務所へ。
そこで、国の新しい更生プログラム「ルドビコ療法」の実験台に選ばれます。
薬で吐き気を起こされながら、暴力的な映像を延々と見せられる日々。
その結果、アレックスは「暴力をふるおうとすると気分が悪くなる体」にされてしまいます。
しかも副作用で、大好きだったベートーヴェンの音楽まで聴けなくなってしまうのです。
アレックスが暴力をやめたのは、反省したからではありません。
暴力をふるおうとすると体が拒否するようにされた、ただそれだけ。
心は何も変わっていないのに、本当に「更生した」と呼べるのか? というのが本作のテーマです。
ちなみに「時計じかけのオレンジ」という不思議なタイトルは、作中でアレックスたちが押し入る家の作家が書いていた原稿の題名として登場します。
前述のとおり、本作はスタンリー・キューブリック監督によって映画化されています。
日本では2011年に、小栗旬さん主演で舞台化もされました。
映画版は、原作の最終章(第21章)が収録されていないアメリカ版をもとに作られているため、ラストの印象が原作とは異なります。
今回私が読んだハヤカワepi文庫の「完全版」は、この最終章まで収録されたバージョンです。
映画も過激なシーンが多いので、観る場合はご注意ください。
印象に残った場面
何の罪もない老人を袋叩き
読み始めた日、私はちょうど仕事で残念な出来事があり、気分が沈んでいました。
そんな日にこちらの本を開いたら、読み始めてすぐに暴力シーン。
このタイミングで読み始めたことを、少し後悔しました。
物語の冒頭、アレックスたちは図書館帰りの老人を見つけると、抱えていた本を破り捨て、殴る蹴るの暴行を加えます。
理由は特になく、ただの暇つぶし。
ただ、この冒頭の衝撃があるからこそ、「ここからどんな話になるんだろう」と一気に物語に引き込まれたのも事実です。
暴力があまりに唐突に描かれることで、際立つ主人公たちの異常さ。
「無軌道な若者」というテーマを最初から突きつけてくる、忘れがたい場面でした。
現実にも起きている若者の集団暴力
老人への暴行は、アレックスたちにとってはほんの始まりにすぎません。
その夜だけでも、店に押し入って店主夫婦を殴り、道端の酔っぱらいを痛めつけ、対立する不良グループと乱闘。
さらには郊外の家に押し入り、住人の作家とその妻にまで暴力をふるいます。
相手は誰でもいい、理由もない。
ただ楽しいから、退屈だから。
読んでいて一番ぞっとしたのは、暴力そのものよりも、この「理由のなさ」でした。
そして、これは小説の中だけの話とは言い切れません。
日本でも、少年たちのグループが路上で暮らす人や通りがかりの人を襲い、「面白半分だった」「むしゃくしゃしていた」と話す事件が、これまで何度も起きています。
最近では、暴行の様子を撮影してSNSに投稿するケースまであるほどです。
一人では何もできないのに、仲間と一緒になると平気で一線を越えてしまう。
アレックスたちの姿は、そんな現実の事件とどこか重なって見えました。
殴られた人にも、その人の人生や帰りを待つ家族がいます。
それを「暇つぶし」で踏みにじっていいはずがありません。
1962年に書かれた小説が、60年以上たった今の日本でも生々しく感じられる。
そのこと自体が、この作品のいちばん怖いところなのかもしれません。
不思議な言葉遣い
本作には、ちょっと変わった単語がたくさん登場します。
日本語に英単語を混ぜて話す、ルー大柴さんの「トゥギャザーしようぜ」みたいな話し方をロシア語に寄せたような感じ…
そんな印象で読み進めていました。
これは「ナッドサット」と呼ばれる若者言葉で、作者のバージェスさんが、英語にロシア語由来の単語を混ぜて作り出したものだそうです。
日本でいうところのギャル語やネットスラングのようなもの、と考えるとわかりやすいかもしれません。
翻訳版では、日本語の言葉にロシア語風の読み仮名(ルビ)が振られる形で表現されています。
最初は読みづらく感じましたが、読み進めるうちに、不思議と慣れてくるもの。
物語の独特な世界観をつくるうえで、大切な役割を果たしていると感じました。
総評
本作では、若者たちが老人や女性に暴行を加え、命まで奪います。
しかも語り手は、その当人である主人公アレックス。
反省の色はまったくありません。
ここからはネタバレになりますが、かつての仲間のディムは警官になり、出所したアレックスを痛めつける側になります。
別の仲間のピートは結婚し、落ち着いた暮らしを手に入れます。
私は、アレックスの横暴さよりも、この仲間たちの行く末のほうが不快に感じました。
完全版の最終章では、アレックス自身も暴力に飽き、大人になることを考え始めます。
これを「成長」と受け取るか、「虫が良すぎる」と受け取るかは、読む人によって分かれそうです。
現実の社会でも、重大な罪を犯したのに刑が軽すぎるのでは… と感じるニュースを目にすることがあります。
そんな現実を思い出させる部分もあり、読んでいてやるせない気持ちになりました。
問題作としての価値は理解できます。
ただ、暴力描写があまりに多く、正直つらい読書体験でした。
気持ちが沈んでいるときに読むのは注意です!
