こんにちは!ヤマモトサオリです。
みなさんは、恐怖体験や不思議な体験をしたことがありますか?
私はそういう話が大好きで、いろいろな人から体験談を聞いては楽しんでいます。
とはいえ、自分が実際に体験するのは苦手です(笑)
そんな私がこれまで聞いた中で一番怖いと思ったのは、友人が実際に体験した話。
友人が不倫相手と一緒にいたとき空から何かが落ちてきて、拾ってみると、それは財布にしまっていたはずの自分の結婚指輪だった… という話です。
幽霊の恐怖とはまた違う種類のものですが、私も話を聞いてヒエッとなりました… 不倫、ダメ絶対。
そんな「人から聞く不思議な話」のぞわっとする怖さを、一冊まるごと味わえる小説があります。
というわけで、今回ご紹介する本はこちら!
『夜行』(著者:森見登美彦) です。
こんな人におすすめ!
・不思議な世界に迷い込んでみたい人
・余韻の残る幻想物語を味わいたい人
・現実と幻想が交錯する物語が好きな人
あらすじと補足
京都で学生時代を共に過ごした6人の仲間たち。
10年前、みんなで鞍馬の火祭を見に行ったその夜、長谷川さんという女性が突然姿を消しました。
それから10年後。残された5人は、再び火祭を見に行くために顔をそろえます。
実はその5人全員が、それぞれ旅先で画家・岸田道生の銅版画『夜行』にまつわる奇妙な体験をしていました。
物語は、彼らが一人ずつ語る不思議なエピソードを通して進んでいきます。
舞台は尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡、そして鞍馬。
日本各地の旅先で起きた怪異が、連作短編のように少しずつ語られていく構成です。
本作は森見登美彦氏のデビュー10年の集大成ともいわれる作品で、直木賞・本屋大賞・山田風太郎賞の候補にもなりました。
『夜は短し歩けよ乙女』や『四畳半神話大系』のようなコミカルな作風をイメージして読むと、雰囲気の違いに驚くかもしれません。
表紙が綺麗でかわいいので、ほのぼのとした青春物語を想像する方もいるかもしれません。
しかし読み進めるにつれて、異世界や神隠しを思わせる不穏な空気が、じわじわと広がっていきます。
秋の夜の鞍馬。
燃えさかる松明と、「サイレイヤ、サイリョウ」という勇ましい掛け声。
大勢の見物客で埋めつくされた、細い山あいの道。
そんなにぎやかな光景のすぐそばで、仄暗い闇がひっそりと口を開けている。
現実と非現実の境目に、いつの間にか足を踏み入れてしまったような… そんな独特の空気感を味わえる作品です。
印象に残った場面
森見登美彦氏らしい独特の表現
森見登美彦さんは、普通なら見過ごしてしまうようなところにも目を留める作家さんです。
そして、思わず「そこをそう表現する?」と言いたくなるような言葉で描いてくれるのも魅力のひとつです。
私のお気に入りは、
「児島くんの唖然とした顔が金時豆のように照らしだされました」
という一文です。
金時豆…!
つやつやと赤く光る、ころんとした金時豆。
唖然として固まった顔がそんなふうに照らされている様子を想像すると、なんとも言えないおかしさがあります。
こういう絶妙な比喩表現、大好きです。
みなさんメンタル強すぎ
登場人物たちは、かなりの恐怖体験をしています。
それなのに、その体験を「とくに何ということもない平凡な旅の思い出」のように扱っている描写があり、思わず「なんでだよ!」とツッコんでしまいました。
いやいや、全然平凡じゃないから。
もし自分が同じ体験をしたらと思うと、ものすごく怖いから。
どれだけメンタルが強いの(笑)
けれど、このギャップこそが物語の不気味さを生んでいるのだと思います。
本人たちが平然と語るからこそ、かえって「本当はとんでもないことが起きているのでは」という怖さが際立ち、「怖いのに、淡々としている」という奇妙な読後感が残ります。
全体に漂う、ねっとりとした得体の知れない怖さ
物語の中には、読んでいて「ん?」と違和感を覚える場面がいくつもあります。
読み進めるうちに少しずつ腑に落ちる部分もあります。
ただ、すべてがはっきり説明されるわけではなく、多くは読者の解釈に委ねられています。
そのため、最後のページを閉じても「結局どういうことだったの?」とモヤモヤする人もいるかもしれません。
けれども私は、その「はっきりしない終わり方」こそがこの作品の魅力だと思いました。
何もかもを明快に示すのではなく、あえて得体の知れないものを置いていく。
だからこそ、本を閉じたあとも、頭の中にじわじわと怖さが居座り続けるのです。
この、ねっとりとまとわりつくような恐怖感こそが、本作の大きな特徴だと思いました。
総評
全体としてはファンタジー作品ですが、ただ夢のような世界を描くだけでなく、背筋がぞくりとするホラーの要素も色濃く漂っています。
また、尾道や津軽など実在の土地を旅する話が中心なので、まったくの架空の世界が舞台の物語とは違い、現実と地続きのリアルさがあります。
そのため、「ファンタジーはちょっと苦手」という方にも手に取りやすい一冊だと思います。
日本に昔から伝わる神隠しのような不思議さと、「きさらぎ駅」のような現代的な怖さ。その二つが絶妙に溶け合っているのも、本作ならではの味わいです。
(「きさらぎ駅」は、ネット掲示板から広まった、実在しない駅に迷い込んでしまうという都市伝説です)
説明されすぎない「余白」があるからこそ、読者それぞれの想像力が働き、より深く作品の世界に浸れるのも魅力でした。
ファンタジーとしても、ホラーとしても楽しめる独特の読書体験。
こういう世界観が好きな方にはきっと刺さりますし、普段このジャンルを読まない方にも新鮮な驚きを与えてくれるはずです。
おすすめです!
